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インターネットから見える社会矛盾と人権
〜 インターネットから見える社会矛盾と人権 〜(第9部)

 私はこれまで約4年弱の期間、インターネット上に反映されてくるさまざまな問題に取り組んできました。事例によっては公的機関や学校、企業などへ連絡・通報・情報提供を職務として、また、ボランティア活動のなかで取り組んできました。

 基本的には人権に関わる内容に取り組んできましたが、掲示板などへのさまざまな書き込みを見ていて疲れてくることもあります。それは差別的な内容や人の自尊感情をズタズタにするような書き込みを見ているということもありますが、そういった行為をしている方々に対しても「なぜ、このようなことをしてしまうまで社会的・家庭的・人間関係・環境などで追い込まれてきたのか」と感じることが一番疲れることかもしれません。

 社会経済の不況の波は市民に厳しい生活を突きつけてきています。「行財政の縮小は社会問題の悪化」という言葉を聞きますが、インターネットという匿名性が許される世界で、現実世界で背負わされているストレスが、ありとあらゆる思いを通じて文書化され発信され続けています。 益々低迷する社会経済は、ネット上で生じる犯罪や差別、人権侵害などもかたちを変え、増加させていくのではないかと感じています。

 これまでの私は、差別的であり人の人権を侵害する書き込みに対し、怒りの感情を持って対処をしてきました。しかし、以前からはその怒りとともに、その書き込みからさみしさというものを感じるようになってきました。  「自分のことを理解してほしい、自分を認めてほしい、自分にもっと関心をもってほしい、欲求を満たしてほしい」という思いがあっても、「誰も自分のことを理解してくれない、誰も自分を認めてくれない、誰も自分に関心を持ってくれない、誰も何も欲求を満たしてくれない」といった思いを感じてしまいます。

親類への強い不満などが、本人自身が持つ価値観であったり、人間観などに大きな影響を与えると言います。それが家庭内暴力につながる事例などもあるようですが、親類などにそれらを向けることができない場合、怒りや悲しみや不満は他者や社会、社会的弱者に向けられることもあるかと思います。最も身近な人々から愛情などを受けていないと感じると、他者や社会からも「認めてもらえない、愛されていない」と感じ、他者や社会から侮辱されていると感じることもあるようです。それらを例えば、学校のガラスを割ったり、教師に暴言を吐くというかたちで表現されるのではなく、インターネットで表現されていることもあるかと思います。

 8部で掲載してきた内容のように心が満たされず、努力してきたことが報われない、身近な人からの愛情を感じられないとき、「平等だ。自由だ」と言っている他者や社会へ憎しみとなっていくこともあるかと思います。そんな思いがインターネットという世界で発信されているかもしれないと思うと、寂しさや悲しさ、不安や不満といったものを背負わされ、何とか楽になりたいと意識的ときには無意識にネット世界に求めているんだと思います。

 これまでのいじめ問題の加害者でも、生活背景などを探っていくと、そういった子どもたちが多いということをよく聞きました。ネット上での他者を傷つける書き込みを行う人々も、その書き込みをしたという現象面で言えば加害者ですが、背負わされているもの、書き込みをした背景などを見つめることができたときに、何らかのかたちで被害にあってきたんだということも、これまでのさまざまな事例から感じる部分があります。

 インターネットだけに限りませんが、差別事件を引き起こしてしまった人が淋しい生活を余儀なくされていたということは少なくありません。自分自身の現在の状態を認めることができず、社会的弱者とされる人々にその認められない非を向けてきたという事例はよく聞きます。  いじめ問題を引き起こしてしまった生徒も、家庭内などの日常のなかで課題を背負わされてきていたということが発覚したということもよくあることです。 本当の意味の弱者とは、加差別当事者や加害者なのかもしれません。傷ついた心、満たされない心を他者に向けてしまうということは「こころが弱くなっている」ということだと思います。

 私たちはそういった事例とともに、「なぜ、そのような行為に至ったのか」という背景をしっかりと見つめ、分析し、学習することで、再発防止に努めなければなりません。十数年前に起きた事件が今年起きないようすることと同じです。本質をしっかりと捉え、理解し、認識した上で、そういった問題が起きないようにするには、家庭教育はどうあるべきか、学校教育はどうあるべきか、家族の関わりはどうあるべきか、人との関係はどうあるべきか、地域との関わりはどうあるべきかなどを具体的に取り組んでいくために、「誰が誰に対して、いつ、どこで、どんな目的で、どのような方法で」という5W1Hを明確にし、必ず前進させていけるしくみをつくっていくことが、何度も掲載するように、限られた時間を与えられた私たちが、次世代の子どもたちに残すべきことではないだろうかと私は強く思います。

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