〜 インターネットから見える社会矛盾と人権 〜 (第19部)
先月、拡張現実技術を駆使したiPhone用アプリケーション「セカイカメラ」が登場した。iPhoneのセカイカメラを起動するとiPhoneのカメラが立ち上がり、そのカメラを通して現実世界(例えば、ビルや住宅、店など)を見てみると、さまざまなコメント入りのタグ(「エアタグ」)や写真が浮かんで見えてくるというものだ。
iPhoneのGPSやiPhone3GSの電子コンパスにも対応しており、3GSの場合には別の方向を見ると、きちんとそれを検出して別のタグが出てきたりもする。
私が考えている、これから起きであろう問題は、グーグル社のストリートビューやグーグルアースなどとは少し異質なものとなる。
例えば、セカイカメラを通して見える個人宅に、第3者が貼り付けたタグに「この家は、○月○日に殺人事件のあった家です」、気に入らない個人の自宅上に、悪口が書かれてしまったり、飲食関係店では、「この店の料理は非常にまずい。この前、ゴキブリが出たので要注意」、企業であれば利害関係者が「この会社での従業員の扱いは最悪」など、悪質なコメントが自由につけられてしまうことが予想される。
飲食店や企業などは、特に社会的信用が重視されるが、それがほんのイタズラ心でセカイカメラ上に表記されたタグやコメントにより、これからの経営に大きな打撃が与えられてしまう可能性もある。
構築的・肯定的なコメントであれば一定よいと思われるが、これまでのインターネット上で生じている問題を見つめれば、強調されるのは誹謗中傷や嫌がらせ、そして差別である。
被差別部落、障がい者や関係施設、外国人や関係施設や店舗等々、差別的なコメントやタグなどがセカイカメラに公開されてしまうことは容易に想像できる。写真や動画も掲載できるとなれば、さらに悪質なものが掲載されてくる可能性もある。
本来は、地下鉄への降り口をタグでしめしたり、緊急時に自由に借りられるトイレのある場所、自分が求める物品が販売されている店舗などがセカイカメラを通じて、手にとるようにわかるというのが本来、開発会社がめざす姿であり、それがビジネスとして利用者の増加を見込みたいというねらいであると思うが、実際のところは、グーグル社が提供するさまざまなサービスなどを通じて生じている問題のように、モラルという言葉では済まされない極めて悪質な利用が出ているように、セカイカメラも悪用される可能性は十分にある。
グーグル社が提供しているサービスを通じて生じる問題に、地方議会などから国や政府に向けて意見書が出され、ようやく国や政府が少しずつ動き出したという状態で、プライバシーや肖像権、個人情報や人権問題に関する議論がこれから重要視されるだろうというときに、本来であれば、危惧する必要のないことを危惧しなければならないのが、現代社会の、そしてネット社会での問題である。
これまでの問題を通じて、IT関連企業などの問題への対応、市民からの相談などへの迅速な対応などが問題視されるなか、セカイカメラを取り扱う企業やその社員の意識によっては、これまで生じてきた問題と同様となり、多くの市民の人権がないがしろにされてしまう事態になりかねない。