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インターネットから見える社会矛盾と人権
〜 インターネットから見える社会矛盾と人権 〜 (第23部)

 小中高校生の間で発生しているインターネットを通じたトラブル問題の現実と、問題が発生をする要因をつきとめようと、当研究所は2013年9月に三重県内の某市教育委員会にお願いし、市内の全中学生を対象とした「インターネット及びアプリケーション利用と生活に関する状況調査」を実施しました。生徒数は2,445人で2,335人に協力いただきました。

 インターネットやアプリケーション、スマートフォンは単なる道具です。道具というのは私たち人間の前では、常に中立な立場にあります。道具そのものに意思はなく、それを使う人間によって用途やつくられた目的に応じた使い方がなされていきます。小学生に「包丁は何に使うもの?」「椅子は何に使うもの?」と聞くと、「包丁は食材を切るもの」「椅子は座るもの」と当然の答えが返ってきます。しかし、連日報道されているように、包丁の本来の使い方とは違う、人を殺傷するために使用してしまう事件が起きています。それは包丁に限らず、本来の道具の使い道とは違った使い方をして、人を殺めたり怪我をさせてしまうような問題は数え切れないほど各地で発生しています。

 こうした状況を踏まえると、結局はインターネットやアプリケーションを使う側の子どもたちに対する取組の重視が、問題の根本的解決につながっていくという視点に立てるのではないでしょうか。子どもたちがインターネットやアプリケーションを利用できる条件が整ったときに他人を誹謗中傷するような状況をつくらないか、そんなことをしない子どもたちを育めるかにかかってくる、つまり、子どもたちの「生き方への追求」が問題の根本的解決につながるものだと認識しています。

 そこで、子どもたちは何故、このような問題を引き起こし続けてしまうのか、その原因や背景を捉えていく必要があると考えました。子どもたちの「自尊感情」「自己肯定感」「自己効力感」といった人間形成で必要不可欠な力が現在、どのような状態にあるのかに着目し、こうした自尊感情などに関する項目と、インターネットにおける加害経験、被害経験等とのクロス集計を行い、その原因の一端をつきとめようと考え、今回の調査を実施するに至りました。

質問項目は以下のように設計しました。

問3 あなたは自分専用の携帯電話やスマートフォンを持っていますか

問3−1 問3で「1.持っている」と回答した人に質問します。自分専用の携帯電話やスマートフォンにはフィルタリングがかけられていますか

問4 あなたがインターネットで利用しているもの(PSPやDS、家庭のパソコンやipadなどを含む)について、あてはまるものすべてに○をつけてください

問5 あなたは1日どれくらいの時間、インターネットやアプリケーションを利用していますか

問6 あなたは1日どれくらいの回数のメール(LINEでの送信を含む)を送りますか。

問7 あなたは、インターネットやLINEで悪口や陰口を言われたり、うわさ話を流されたり、仲間はずしをされたりしたことがありますか

問7―1 「問7」で「1.ある」と答えた人に質問します。被害を受けたサイト・掲示板・アプリなどの名前と、「どのように被害を受けたのか」

問7−2 「問7」で「1.ある」と答えた人に質問します。その時、あなたはどのように対応しましたか

問8 あなたは、インターネットやLINEで他人に対して、悪口、陰口、うわさ話を流すなどの人を傷つけることや仲間はずしをしたことがありますか

問8―1 問8で「1.ある」と答えた人に質問します。友だちなどを傷つけたり、仲間はずしをしたりしたサイト・掲示板・アプリなどの名前と、「どのように傷つけたのか」

問8―2 「問8」で「1.ある」と答えた人に質問します。その時、あなたはどのような理由で他人を傷つけたり仲間はずしをしたりしましたか

問9 あなたはインターネットやLINEで、同じ学校の生徒が被害を受けたり、また同じ学校の生徒が他の生徒を傷つけたり、仲間はずしをしたりしていた状況を見たり聞いたりしたことはありますか

問9―1 問9で「1.ある」と答えた人に質問します。そのサイトや掲示板、アプリの名前や、どのように被害を受けたり、他の生徒を傷つけたり、仲間はずしをしたりしていた状況を下の枠内に詳しく書いてください。

問9−2 「問9」で「1.ある」と答えた人に質問します。それを見たとき、あなたはどうしましたか

問10 携帯電話やインターネット、LINEなどのアプリケーションを利用するときのルールやマナーについて家族の人と話をしたことがありますか

問11 あなたは、インターネットやLINEを通じて知り合った友だちはどれくらいいますか

問12 あなた自身やあなたの学校の生徒が、仲間はずしなど以外でLINEを通じてトラブルに巻き込まれたことがあれば、下の枠内に詳しく書いてください。

問13 その他、LINE以外のサイトやアプリケーションを通して起きている問題を知っていれば、その名前や状況について下の枠内に詳しく書いてください

問14 あなたは、自分にはよいところがあると思うことがありますか

問14−1 問14で「3.あまりない」「4.ない」と答えた人に質問します。そう思うのはなぜですか

問15 あなたは、信頼できる人が学校や周りにたくさんいると思うことがありますか

問15−1 問15で「3.あまりない」「4.ない」と答えた人に質問します。そう思うのはなぜですか

問16 あなたは自分がイヤになることがありますか

問16−1 問16で「1.よくある」「2.ある」と答えた人に質問します。そう思うのはなぜですか

問17 あなたは「死にたい」と考えたことがありますか

問18 あなたは、何もやる気がおきないことがありますか

問19 あなたは、自分の考えや行動などに自信がないなどの理由で他人にあわせることがありますか

問20 あなたは、「楽しい」と感じることがありますか

問21 あなたは、自分が友だちや周りの人の役に立っていると思うことがありますか

問22 あなたにはコンプレックスがありますか

問23 あなたは悩み事を抱えた時、苦しい、悲しい、寂しい、辛い時、誰に相談しますか、また、相談できますか

問23−1 問23で「9.誰にも相談しない・相談できない」と答えた人に質問します。その理由について、あてはまるものすべてに○をつけてください。

問24 あなたには夢や目標がありますか

 被害経験や加害経験の具体的内容は自由回答記述としました。そこに記載された内容の9割は「LINE」を通じた被害・加害でした。

被害内容の記述を一部抜粋したのが下記です。

・LINEで前に、いっしょのクラスの子から「あいつうざい。へたくそ」とか悪口を書いてあったらしくて、そのことを読んだ子が結構いた。

・LINEでグループを退会させられた。

・LINE 誘われて入ったグループでトークしていたら、勝手に退出させられて、友だちが「めっちゃ悪口を言ってたよ」って教えてくれた。でもその退出させられた人は同じ学年だったのにしゃべったことはなくて、悪いことも特にしていなかったのに。

・LINEで自分の写真を勝手に載せられ「カス」と書かれた。

・LINE タイムラインに悪口を書かれた。

・LINEではいっていたグループを退会させられて、直後に悪口をすごい書かれていた。友だちにLINEでその悪口を書いている写真を送ってきて知った。

・LINEで、友だちから悪口を言われているよと教えてもらった。

・LINE タイムラインで嘘の情報をばらまかれた。

・LINEで好きじゃないのに、その人が好きだというデマを流された。

・LINEで「死ね」という言葉を言われた。

・LINEで根拠のない悪口を言われた。友達が少ないやクズなど。

・LINEで親友と思っていた人にグループでバカにされた。(集団)

被害内容の記述を一部抜粋したのが下記です。

・LINEでその人の悪口を言うグループをつくって「病院行け」などと言った

・LINE タイムラインで友達の悪口を書いた。友だちとの個人トークで違う友達の悪口を言った

・LINEの一言に「○○うざい」とか「○○死ね」と書いた

・LINEのひとことコメントやタイムラインにイニシャルで○○うざいと書いた。「誰?」と聞かれたから名前を教えた

・LINEのグループで1人の子に「うざい」とか言ったことがある

・LINEのグループで友だちの陰口を言ったことがある

・LINEで「きもい」とか「うざい」とかした。グループをつくるのでも、うざい人は招待しなかった

・LINE 友だちを仲間はずれにした

・LINEでグループを強制退会させた

・LINEなどで、見られてないからと、自分が言われて傷つくことを言った

 調査にはさまざまな方法があります。大きくわけると「量的調査」と「質的調査」です。量的調査は、調査票を調査対象者に配布し記入してもらい、データを収集するようなアンケート方式の調査を言います。質的調査は、調査対象者一人ひとりに対して聞き取りを行うようなヒアリング形式や、一つひとつの事例を掘り下げて調べようとする調査を言います。
量的調査は、大量の同一基準に基づくデータを収集することができ、表やグラフに表し、平均値や割合を算出したり、比較することができます。非常にわかりやすく実態を提示できるメリットがあります。また、グループ分けや相関関係を探索することもでき、全体的な状況を把握することができます。しかし、問題の傾向や背景を知る手がかりを得ることはできますが、表面的な部分にとどまってしまうという弱点があります。つまり、広範囲な実態を把握することはできますが、得られる結果は「浅い」ということです。
 質的調査は、一人ひとりに時間をかけながら聞き取りや事例を掘り下げることができます。多面的で複合的な極めて現実的な情報を収集することができ、因果関係や全体像を把握することができます。しかし、調査の対象者数に限界があり、他との比較は困難になります。つまり、深く現実や実態を把握することはできますが、調査範囲が「狭い」ということです。

 全国学力学習状況調査やQU調査等の学校で行われる調査も、量的調査にあたります。しかし、教育現場は、質的調査も実施することができます。むしろ、教育現場には質的調査のほうが重要です。今回、当研究所が市教委と中学校の協力を得て実施した調査で最も大切にしてほしかったのは、それぞれの学校の担任や学年団が「この回答は誰が回答した調査票であるか」を把握してもらうことでした。「誰にどのような課題があるのか」を把握した上で、日常の教育のなかで質的調査による丁寧な生徒1人ひとりへの関わり・こだわりを通して深く探索し、生徒1人の課題や問題を生じさせる原因・背景を掴み取るなかで、効果のある確かな取組へと活かしてもらいたいというのが調査を実施する上での目的でもありました。

 以後、こうした調査を実施される際には、上記のような観点をもって取り組んでいただくことが望まれると考えています。

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