〜 インターネットから見える社会矛盾と人権 〜 (第25部)
前回からの続きで、今回はインターネットに関わる内容からは少し離れますが、県内某市の中学生が、現在どのような状態にあるのかを紹介していきます。
問14 あなたは、自分にはよいところがあると思うことがありますか。
自分にはよいところがあると思うことについて最も割合が高かったのは「ある」で68.7%、2番目に高かったのは「あまりない」で15.1%、3番目は「よくある」で8.9%、次いで「ない」が5.7%となっています。
性別で見ると、「よくある」では「男性」が12.4%、「女性」が4.9%と「男性」のほうが「女性」よりも、自己肯定感は高いと言えます。
学年別で見ると、「あまりない」「ない」の2つをあわせてみると、「中1」が17.5%、「中2」が20.7%、「中3」が24.5%と学年があがるにつれて自己肯定感が低くなっています。
問14−1 問14で「3.あまりない」「4.ない」と回答した人にお聞きします。そう思うのはなぜですか。その理由を下の枠内に詳しく書いてください。(下記は一部抜粋です)
・学校とかで特に活躍できないから
・祖母、父に「お前は何もできない子だ」と言われたし、自分自身もそう思うから
・周りの人を見ていれば自分より人がたくさんいて自分がみんなより下と考えているから
・得意なことも、好きだと思うこともないから。ほめられたことも少ない
・自分のことがあまり好きでないから
・自分にいいところがあると思ったことがないし、感じたことがない
・自分の行動に自身がないから
・自分はあまり人にほめられたりしないから
・自分のことがあまり好きじゃないから
・自分にどんな長所や興味がないし、そんな良いところがなくてもいいと思っているから
・自分にはダメな部分のほうが多くて自分のいいところを見つけるのが嫌になってくるから
・自分のことをいい人間だと思っていないから
・勉強もできんしスポーツも好きでもないし、自分自身、性格が悪いと思うから
問15 あなたは、信頼できる人が学校や周りにたくさんいると感じることがありますか。
総数では、「よくある」が33.0%、「ある」が55.5%、「あまりない」が7.2%、「ない」が1.7%となっており、生徒の9割近くは信用できる人がまわりにいると回答しています。
問15−1 問15で「3.あまりない」「4.ない」と回答した人にお聞きします。そう思うのはなぜですか。その理由について下の枠内に詳しく書いてください。(下記は一部抜粋です)
・友だちに裏切られたことがあり、それから怖くなったから。信頼できる人は1人しかいない
・仲の良い子とかは信頼できるけど、あまり他人を信頼することがない。先生とかも簡単には信じない
・しゃべりかけてくれる子があまりいないし、しゃべりかけても無視されたりするから。裏で悪口を言われたりしているから
・友だちそんなにたくさんいないし、家族とそんなに仲良くないから
・他人に入ってほしくない。領域にズカズカ入ってくる人が多いから。まとめると、うざい。というか1人にしといて欲しい(特定の人以外は)
・友だちも先生も親でさえも本気で聞いてどうにかしようと思ってくれていないから。まず、先生がだめだから
・本音で話せないから。相談できないから
・人をあんまり信用しないから
・自分が本当のことを言っても、信用してもらえないことが多いから
・小学校のとき、仲がよかった子に陰で悪口を言われていたから
・人を信じるのが怖い
・家族は信頼できるけど、友達はあまり信頼できないから。友達に何か言うと、すぐにうわさを流されるような気がする
・自分自身が心を開かないから
・一度、「絶対に言っちゃだめ」と言ったことをみんなに言われたことがトラウマになっているから。インターネットの友だちの方が楽しいから
・友達は信じきれないし、先生には相談しているけど、どうしても言いにくい事などもあるから。信じられる友達はいなくなった
問16 あなたは自分がイヤになることがありますか。
総数では、「ない」が14.9%、「あまりない」が50.8%、「ある」が23.8%、「よくある」が8.5%となっています。
性別で見ると、「ない」では「男性」が22.8%に対し、「女性」が5.7%と「女性」は「男性」の約4分の1となっている。「よくある」では「男性」が4.8%、「女性」が12.7%と「女性」は「男性」の3倍近くにおよんでおり、「女性」が自己否定をしている割合が高くなっています。
学年別で見ると、「ない」では「中1」が18.1%、「中2」が13.7%、「中3」が12.7%と学年があがるにつれて「ない」の割合が低くなっています。
問16−1 問16で「3.ある」「4.よくある」と回答した人にお聞きします。そう思うのはなぜですか。その理由について詳しくお書きください。(下記は一部抜粋です)
・自分より他の子の方が良いと思うことがあるから
・つい友達を傷つけてしまったり、家族でケンカをしたりすると嫌になる
・部活とかで自分が皆の足を引っ張ったりするとき
・私はいつも友達のことを信用できなかったり、親に反抗的な態度をとってしまったり、人に意見をあわせたり、嫌なところがたくさんあるから
・嫌なことを後回しにしている。いけないこととはわかってる。人に嫉妬してしまう。まわりの人たちが何をするにも自分より上だから。コンプレックスがいっぱい。死にたいと思ってしまう。殺したいと思ってしまう。人の対応が冷たいとすぐに「嫌われてる」と思ってしまう。すぐに泣いてしまう。すぐ物をなくす。物にあたる(イライラしていると)
・人に合わせて生きていたり、その人の「いい人」でいるために本当の自分を隠していたり、自分の居場所をつくるために必死になっているなって思う自分が嫌になる
・自分が人に迷惑をたくさんかけていると思うから
・アトピーだし、ルックスが悪いし、運動神経が悪いから
・勉強もできんしスポーツも好きでもないし、自分自身、性格わるいと思うから
・部活とかでミスをしたときに、自分だけじゃなくてまわりもやり直しになって迷惑をかけることがあるから。人には個性とか違いとかあるのに、いろんなことで人と比べて、その人より自分が低かったりしたり、低かった理由が自分の努力不足だったりしたときに「なんで私は、これだけしかできないんだろう」と自分が嫌になる
・どうしてこんなに頭が悪いんだろう、足が遅いんだろうなど思うことがある
・人の悪口を言って、自分が嫌になることがあるから
・性格、体、性別がいつも嫌だから
・何もかもが嫌になるとき。思いが伝わらないとき。部活でもみんなが上手になっていくのに自分だけ上手にならないとき、おいていかれると思うとき
・人から「オタク」と呼ばれたり、「死ね」って言われたりするから
・すぐ失敗する、ムカついたらものにあたる、物忘れがはげしい、お金を計画的に使えない、なんでもすぐじゃないと嫌なところ、平気で悪口を言うところ、薬が飲み込めないからです
・自分の嫌いなところがいっぱいあるから
・自分がした行動に情けなく思ってしまうことがあるから
・他の人と比べてしまうから
・勉強とかで失敗しておこられて自信をなくして嫌になる。最近はよくある
・やろう思ったことにやる気がでなかったり失敗してしまったりすることがよくあるから
問17 あなたは「死にたい」と考えたことがありますか。
総数では、「ない」が57.2%、「あまりない」が24.9%、「ときどきある」が13.1%、「よくある」が3.7%となっています。
性別で見ると、「ない」では「男性」が67.6%、「女性」が45.6%、「ときどきある」「よくある」の2つをあわせると「男性」が10.3%、「女性」が24.5%と「女性」は「男性」の2倍以上高くなっています。
「ときどきある」「よくある」の2つをあわせると16.8%にもおよんでおり、厳しい精神状態にある生徒は決して少なくありません。
問18 あなたは、何もする気がおきないことがありますか。
総数では、「ない」が10.3%、「あまりない」が23.4%、「ときどきある」が47.7%、「よくある」が17.7%となっています。
性別で見ると、「ない」では「男性」が13.2%、「女性」が6.9%と「男性」は「女性」の約2倍高くなっている。「よくある」では、「男性」が14.4%に対して、「女性」が21.4%と「女性」のほうが「男性」よりも7.0ポイント高くなっています。
学年別で見ると、「ない」では「中1」が14.2%、「中2」が8.9%、「中3」が7.5%、「よくある」では「中1」が12.3%、「中2」が18.5%、「中3」が22.7%と、「何もやる気がおきない」傾向は学年があがるにつれて高くなっています。
問19 あなたは、自分の考えや行動などに自信がないなどの理由で他人にあわせることがありますか。
総数では、「ない」が9.0%、「あまりない」が28.9%、「ときどきある」が48.1%、「よくある」が12.9%となっています。
性別で見ると、「ない」では「男性」が11.4%、「女性」が6.4%、「よくある」では「男性」が9.8%、「女性」が16.4%となっており、「男性」よりも「女性」のほうが他人にあわせる傾向が高くなっています。
問22 あなたにはコンプレックスがありますか。
総数では、「ない」が12.2%、「あまりない」が53.9%、「少しある」が27.3%、「ある」が5.4%となっています。
性別で見ると、「ない」では「男性」が28.5%、「女性」が8.7%と「女性」は「男性」の3倍近くとなっている。「少しある」「ある」の2つをあわせると「男性」が40.0%、「女性」が68.9%となっており、「女性」のコンプレックスがあるという傾向が高く7割近くにおよんでいます。
学年別で見ると、「ない」では「中1」が22.9%、「中2」が19.0%、「中3」が15.5%、「ある」では「中1」が14.9%、「中2」が21.0%、「中3」が17.5%と、学年があがるにつれてコンプレックスが「ある」傾向が高くなっています。
表1
「死にたい」と考えたことがある経験と自尊感情・自己肯定感等とのクロス集計(無回答欠損値扱い)
自尊感情等に関する設問項目のなかで深刻にとらえている「問17 死にたいと考えたこと」について、他の項目とクロス集計をしました。
まず、「問14 自分にはよいところがある」で「よくある」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く68.3%と7割近くになっており、「自分にはよいところがある」で「ある」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」も62.0%と6割をこえています。一方、「自分にはよいところがある」で「あまりない」「ない」とした生徒の「死にたいと考えたこと」が「よくある」と回答した割合は16.5%と割合が最も高くなっており、「ときどきある」では30.8%と3割におよんでいます。
次に、「問15 信頼できる人が周りにいる」とクロス集計しました。「信頼できる人が周りにいる」で「よくある」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く69.2%と約7割となっています。一方、「信頼できる人が周りにいる」で「ない」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「よくある」との回答の割合が最も高く42.5%と4割をこえています。
次に、「問16 自分がイヤになる」とクロス集計しました。「自分がイヤになること」が「ない」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く89.4%と9割におよんでいます。一方、「自分がイヤになること」が「ある」と回答した生徒は「死にたいと考えたこと」が「よくある」とした割合が最も高く22.1%と2割をこえています。
次に、「問18 何もやる気がおきない」とクロス集計しました。「何もやる気がおきない」で「ない」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く85.0%と8割をこえており、「何もやる気がおきない」で「あまりない」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合も74.4%と高くなっています。一方、「何もやる気がおきない」で「よくある」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「よくある」とした割合が最も高く14.9%となっています。
次に、「問19 自信がないので周りにあわせる」とクロス集計しました。「自信がないので周りにあわせる」で「ない」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く77.7%となっており、「自信がないので周りにあわせる」で「あまりない」と回答した生徒も65.6%となっています。一方、「自信がないので周りにあわせる」で「よくある」と回答した生徒が「死にたいと考えたこと」が「よくある」とした割合が最も高く12.9%となっています。
次に、「問20 楽しいと感じること」とクロス集計しました。「楽しいと感じること」で「よくある」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く64.2%となっています。一方、「楽しいと感じること」が「ない」とした生徒の「死にたいと考えたこと」が「よくある」とした割合が33.3%と3割におよんでいます。
次に、「問21 周りの人の役に立っている」とクロス集計しました。「周りの人の役に立っている」で「よくある」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く76.2%となっています。一方、「周りの人の役に立っている」で「ない」とした生徒の「死にたいと考えたこと」が「よくある」とした割合が最も高く24.6%になっています。
次に、「問22 コンプレックス」とクロス集計しました。「コンプレックス」で「ない」と回答した生徒の「死にたいと考えたこと」が「ない」とした割合が最も高く78.4%と8割近くになっています。一方、「コンプレックス」で「ある」とした生徒の「死にたいと考えたこと」が「よくある」とした割合が最も高く10.8%になっています。
「死にたいと考えたこと」があるとした経験は、こうした自尊感情や自己肯定感、自己効力感等との関連が強くあることが示されました。表にはしていませんが、「自分にはよいところがある」「信頼できる人が周りにいる」「自分がイヤになる」「何もやる気がおきない」「自信がないので周りにあわせる」「楽しいと感じること」「周りの人の役に立っている」「コンプレックスの有無」といった項目は、それぞれが単独で現れている結果ではなく、すべての項目に関連性のあるもので、厳しい回答の生徒には複合的な課題が重なり合っていることがわかりました。
おとなが非常にストレスを感じやすい不安定な社会では、その影響は子どもたちに真っ先に酷く影響をおよぼすと言われています。多くの学校では、生徒数が減ってきているのに、生活面で課題を抱える生徒、支援が必要な生徒は増加しています。殺人、自死、虐待、ひきこもり(不登校)、薬物依存、うつといった問題が昨今、特に頻発していることも、今の日本社会を象徴的に映し出していると見ています。
こうした社会はおとなや子どもたちに「生きにくさ」を生み出します。「子どもの貧困」という言葉を見聞きすることが増えましたが、「自尊感情・自己肯定感・自己効力感の貧困」「関心・感動・気力の貧困」「関係性の貧困」「想像力の貧困」「将来展望の貧困」など、さまざまな課題として表現され、それは社会や日常への不平不満を増幅させ、人をねたんだり、うらやむような「生き方の貧困」を生み出しやすくなると見ています。誹謗中傷や差別などが昨今、頻発するのは、こうした社会情勢と、それに影響されたおとなや子どもたちが引き起こしていると考えています。
このような状況なかで、子どもたちの暮らしにせまり、生活体験の一つひとつを丁寧に振り返りながら、それぞれの出来事に真正面から向き合うなかで、これからの生き方を確立する営みが求められます。そのためには子どもたちが抱える「しんどさ・苦しさ・悲しさ・辛さ」を聴くことのできる関係を私たちは構築しなければなりません。また、保護者にもこれまでの苦労や本来は語りたくない体験を聴くことのできる関係をつくることも必要不可欠です。
ここ数年の出会い学習では、厳しい生活の渦中にある子どもたちが、クラスや学校ではこれまで開示できなかった、保護者にも言えなかったような「しんどさ・苦しさ・悲しさ・辛さ」を涙ながらにクラスや学校で語る姿に数多く出会ってきました。誰にも相談したり話することができなかった「本当は知ってもらいたい100%の自分」を開示できた子どもたちの生活や生き方は大きく変わります。
こうして、弱さを語れる・出せる本来の自分を取り戻し、エンパワメントされはじめた集団のなかにも変化が出てきます。長年ともに生活をしていても何も友だちを理解していなかった、実は自分と同じような苦しさを抱えていた、排除や決め付けをしてきたなど、さまざまな感情を抱きはじめる子どもたちが出てきます。1人ひとりの具体的な気づきや想いを丁寧に取り上げ、子どもたちを豊かにつなぐ作業が求められます。
日常生活での苦しさや辛さなどによるストレスを差別や人権侵害、ネットでの誹謗中傷や仲間はずしなどとして発露するのではなく、人との豊かなつながりのなかで、安心できる関係、弱さを出せる関係、苦しさを共有できる関係をつくりあげることこそが、私たちに求められる子どもたちへの取組です。ネット問題の根本的解決は、こうした観点での取組が必要だと思います。
第22部から第25部にわたって紹介した内容や中学生対象の調査結果の詳しい内容は「ヒューリアみえ研究紀要第2号」に掲載されています。興味・関心のある方はお買い求めください。